編集1998/10/5
戦後50年の日本には、高度成長を成し遂げる核となった住宅産業が
有りました。
現在もそのスピードは衰える事を知らず、世界的にもトップクラスの年間
110万戸という産業が有り続けます。
伝統的な木造軸組み工法から、プレファブ化した住宅、そして外観や見
た目だけの内装仕上げを商品化した日本の家造りの歴史を振り返り、
様々な問題を引き起こしてきた家造りを考え直しませんか?。
私達の言っている事が全てだとは思いませんが、少しでも皆さんの家
造りの参考にして頂ければ幸いです。
■第1章 欧米の住宅との比較
■第2章 忘れ物
■第3章 不要の副産物
■第4章 環境への影響
■第5章 現代社会の悪循環
■第6章 転換のとき
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最初に、今日に至る日本の住宅の歴史を欧州の住宅と比較しながら考えましょう。
家造りの上辺の形だけを輸入してしまった、今日の日本の住宅造りがわかります。
『夏は暑く、不快な日が続く日本』 VS 『乾燥した日が続き夜更けまで明るい欧州』
『冬は明るく乾燥した日が続く日本』 VS 『湿っぽくて朝が遅く夜が早い欧州』
(日本でも日本海側等の一部地域は違ってくるでしょうが)
この対照的な気候風土の違いから、当然のように家造りは違う方向に進みました。
そして日本の住宅は、開放的な「開く」家造りから
欧米型の「閉じた」家造りへと転換しました。
この開いた家造りのまま進んでいれば、日本でも今日のような事は起きなかったのかも知れませんが、日本の住宅・・・という
より住宅を造る人たち・・・というよりも住宅を商品としてしまった人達は、欧米の家造りの上辺の形ばかりを取り入れてしまい
ました。
そしてこの時に、形だけでなく、閉じた住宅(気密化された住宅)に一番必要なものを取り入れることを忘れてしまったのです。
この時同時に、家に布団をかぶせる発想のもとに断熱材が生まれました。
そして、そこに依然として変わらない開放型ストーブを使い続けてしまったのです。
その結果、壁体内のグラスウールは冬期に水蒸気を含み、腐り、木材を腐食させ家を短命なものにしてしまいました。
そして、そればかりでなく・・?
海外から、閉じた住宅を取り入れた日本の住宅は産業の成長とともに増えつづけました。
しかし、そこには大きな忘れ物が有ったのです。
欧米の石造り文化から始まった閉じた(気密化された)建物に有った暖炉やストーブの煙突は、自然と室内の空気を『換気』す
る役目をしていました。
しかし、日本ではこの『換気』については、それほど真剣に考えられてはいなかったのです。
依然として使われつづける開放型のストーブは、住む人に直接酸欠の危険性を与え、室内に二酸化窒素等のガスを放出し、ま
た『大量の水蒸気』を放出することで人間と家に対し、害を与え続けました。
今日、この水蒸気をいかにして排除するかが家造りの基本になっていると言っても過言では無いでしょう。
また、この開放型のストーブ等を使い『部屋ごとを個別に暖房する』ということが、家の中に非暖房室を作り、その非暖房室
では壁体内で断熱材に結露を発生させ、十分に水を含んだ繊維系の断熱材にはカビ・ダニが発生し、ここで発生した、ダニの
糞や死骸がアトピーを誘発し始めましたのです。
また家の中で各部屋ごとに起きる温度差で、一部の人たちは冷ショックを起し『脳卒中をも誘発する』ということになりました。
この時点で、海外では既に『第三種換気』という換気装置を導入していたにもかかわらず、日本にはそれを取り入れなかった
のです。
この事が、数十年にわたって日本で住む人を悩まし苦しめ続けてていたのです。
【 家造り考 】 家造りの歴史 第3章 不要の副産物 |
日本では、戦後の高度成長と共に数々の建材類が生まれました。
そして、そこには数々の『不要の副産物』が有りました。
カーテン・カーペット |
防炎剤 |
畳の防ダニ剤 |
VOC(揮発性有機化合物) |
防腐防蟻剤 |
有害ガス |
ビニールクロス |
可塑剤 |
接着剤・塗料 |
ホルムアルデヒト |
■シックハウス症候群
これらの建材類等によって、新病『化学物質過敏症』が生み出されてしまいました。
最近になってようやく、これを何とか防ごうと指針値が定められたり、ビルダー側でも積極的に自然材をふん
だんに使ったり、各建材メーカでは建材の生産時に使われる接着剤等が改良されるようになりました。
しかし、化学物質は住宅を造る時にだけでなく、日常使われている生活用品の中にいくらでも存在しているの
です。
家の中を見回してみてください。思い当たるものが極身近に沢山あるはずです。
■基礎断熱と防蟻処理?
※近年では、住宅の高気密・高断熱化が進む中、外貼り断熱工法において基礎断熱工法(床下空間も居室
空間と同じ環境にする)が多くなってきています。
このような工法において、今までと変わらない薬剤で床下に防蟻処理を行うとどのような事態になってしまう
のでしょうか?普通ではほとんど、まずといっていいほど行われない行為ではあると思いますが、床下空間も
居室空間と同じ環境にするという理論を理解しない(特に考えもしない)ビルダーがいたとしたら、そこに住む
人は防蟻の薬剤が漂う中で生活しているのと同じです。
24時間計画換気システム程度の排気量では、これを解決することにはならないでしょう。
防蟻薬材の毒性の強さは、誰もが認めているのですから十分な配慮が必要です。
そして「家造りだけが」とも言いませんが、家造りにおいてもこのような問題が「住宅の中だけに留まらず」、地
球規模に及ぶ問題をも引き起こしていたのです。
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【 家造り考 】 家造りの歴史 第4章 環境への影響 |
「家造りだけが・・・」とは誰も言わないとも思いますが、少なくとも家造りも地球規模に及ぶ環境破壊に加担してしまっているこ
とを認識しなければなりません。
それは、まして日本だけというような事も無いし、今やそのような狭い観点からだけで環境というものを考える時代ではなくなっ
てしまいました。
これからの家造りにおいて何をしななければならないのかを考えるにも、この『環境への影響』ということを常に認識していかな
ければならない時がきていると思います。
●海中のプランクトンの大量死滅 → 魚の死滅
●皮膚癌、白内障、失明者、免疫低下によるウィルス性疾患。
●オゾン層の破壊によって、今まで地球に届くことのなかった『通常の紫外線とは違った』
より波長の短い『紫外線B』が地球に到達するようになり生物細胞のDNAにダメージを
与えるようになりました。
このことが取りあげられるようになり、フロンは急激に使われないようになってきましたが、
フロンが地球からオゾン層に届くまで、10数年かかるという事を考えれば、まだまだ
破壊は続いているという現実がここにもあるのです。
●石炭、石油を燃やす → 硫黄酸化物 Sox
●窒素酸化物 Nox
これらの発生が酸性雨、酸性霧、酸性雪の原因となり、森林破壊やプランクトンの異常
発生により、魚貝類を死滅させることになりました。
これくらいの規模の話しになると、町場の注文住宅を請け負う工務店には関係の無い話しのような気もしますが、そんな一戸
建住宅でさえも材木は製材する時に電気は使うわけだし、建材もクロスも大工さんたちが使う工具でさえ全てが何らかのエネ
ルギーを使って存在するわけだから簡単に無視することも出来ないと考えなければなりません。
「じゃあ建築なんて無くなればいいじゃないか」といった具合に環境を考え始めると全てが否定的に考えがちになりますが、真
剣に、前向きに全てを受入れる姿勢がこれからは必要だと考えます。
「今私達にできること」を真剣に考え、同じ思想の元に家造りを出来る仲間達を一人でも多く造ることが必要なのです。
また、そこに住まう人たちと真剣に家造りを話し合い、住宅の本質を家造りの思想を理解しあい、上辺だけの環境配慮住宅、
健康住宅、省エネ住宅から脱皮した住宅造りをする時期がきています。
■世界的にも各方面から『環境』に関する取組が行われています。
■1975年
ラムサール条約
(イラン) |
●水鳥の生息地など国際的に重要な湿地生態系保的 |
■1975年
ワシントン条約 |
●絶滅の恐れのある野生生物を保護する目的で、象牙、鰐皮バッグの国際取引を規定。(日本はラムサール条約同様1980年同時加盟) |
■1992年
生物多用条約
(地球サミット) |
●地球上の全ての生物と生態系のタイプ(陸上生態系、水界生態系)を保全するこ とに157カ国の署名を得て1993年発行
●レスターブラウン氏は1981年、将来に恒って波状をきたすようなストレスが蓄積されない"持続可能な社会"を提唱。これが1992年ブラジル地球サミット"アジェンダ21"に『持続可能な開発』というテーマで取り上げられた。 |
■1994年
気候変動に関する
国際連合枠組み条約 |
●"気候変動に関する国際連合枠組み条約"が締結発行され全締約国共通の約束気候系(大気、水圏、生物圏、地圏とそれらの相互作用)に対し、大気中の温室効果ガス濃度を安定化する目標で討議される。 |
■1997年6月
COP3(京都会
議)
地球温暖化防止会議
(第3回会議) |
●CO2の排出量を2008年〜2012年の5年間に1990年度比 日本6%、USA7%、EU8%削減を決定。努力目標ではなく法的拘束力のある議定書。1990年レベルの6%の削減で合意をみたが、これは大変厳しい数値といえる。日本のCO2排出量は1995年時点で3億3200dあり、基準年である1990年の3億200dに対し既に8.1%増となっている。そこで政府は、発電所の中でCO2発生量が少ない原子力発電所を20基増設するという、信じがたい方針を打ち出した。
●目標期間・・・・・2008年~2012年の5年間
●主要国の削減率・・日本6%・USA7%・EU8%・カナダ6%
ロシア±0%・オーストラリア+8%等
●対象ガス・・・・・二酸化炭素・メタン・亜鉛化窒素・HFC・PFC・SF6
●Etc |
■1998年11月
COP4
アルゼンチン
(ブエノスアイレス) |
●COP3において合意が見送られた途上国の参加問題
●先進国のわがまま・・・1998年第4回会議では、後進国から先進国のわがままと抵抗される。 |
■1999年10月
COP5
ドイツ (ボン) |
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■2000年12月
COP6
オランダ
(ハーグ) |
●進展無し、平行線気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、大気中の二酸化炭素濃度を現状レベルで安定化するためには、直ちに人間活動による二酸化炭素排出量を60%以上削減することが必要と警告してから10年が経ちました。
COP3で京都議定書が採択され、地球温暖化問題が解決にむかっていると思っている人も多いのではないかと思います。残念ながら実際は、未だに発効の目処すらたっておらず、対策もあまり進まない一方で、温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっています。
京都会議での約束は、世界の国々がはじめて法的義務のある具体的な削減目標に合意したという意味では貴重な一歩といえます。
しかし、京都議定書を発効させるためには、たくさんの課題が積み残されており、今なお議論が続いています。 |
地球温暖化対策としての詳しい資料は「環境省」ホームページをご覧ください。
(http://www.env.go.jp/から地球環境・国際環境協力へ))
『この地球の環境は、祖先からの遺産ではなく未来の子供たちからの借物である』
(米国ワールドウォッチ研究所 レスターブラウン氏)
【 家造り考 】 家造りの歴史 第5章 現代社会の悪循環 |
私達個人レベルでの家造りが
意外にも地球環境というレベルにまで影響を与えていたという事実をご存知でしたか?
個人レベルでは、とても高価でありながら住む人にとっては不健康な今までの住宅が、25年や30年そこらで建て替えられて
います。
街レベルでは、良く言えば個性的な住宅によって景観は失われ、短命な住宅も手伝ってゴミは氾濫し、作っては壊すという産
業で空気汚染は加速しました。
結果、地球という大規模の中では温暖化が進み、オゾン層は破壊され、緑は破壊され砂漠化が進み多くの問題が山積みとな
りました。
この循環を止めるには、個人レベルで出来ることをまさに今始める必要があるのです。
これらは先人たちがやってきたことかもしれませんが、先人たちを責めることも出来ません。
日本は戦争に負けたにも関わらずどん底から這い上がり高度成長を成し遂げ、今の豊かな生活を与えてくれたのですから。
全てを否定しなくても必ず出来ることは有ります。
つまらない否定論ばかりを言い合うより『今出来ること』を今から始めませんか?そんな時代がもうきているのです
【 家造り考 】 家造りの歴史 第6章 転換のとき |
住宅の歴史を踏まえ、21世紀の新しい家造りを始めなければなりません。
地球環境を破壊し続け、家の中には不健康の源を撒き散らし、25年やそこらで
建て替えなければならない住宅造りはもう終わりにしなければなりません。
でも、仕方なかった戦後50年。 もう少し振り返ってみましょう。
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転換のとき
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戦後の50年の間に家造りに関連する物で、進歩したといえるのはサッシ・建材類・住宅設備機器くらいです。断熱や気密の技
術や考え方等は最近になってようやく確立されてきたところです。
いち早く高気密・高断熱住宅に取り組んで実践しているビルダーでさえ20年やそこらの浅い歴史しかありません。30年程前
から北海道では実験的に導入されていた物でも、10年以上試行錯誤が繰り返されていました。
シックハウス症候群だとか、VOCだとかいう問題などは本当にごく最近の話しなのです。
そろそろ私達の「住まい」と「住み方」について、造る側も住まう側も真剣に取り組まなければならないのではないでしょう
か?。
CO2削減(地球温暖化防止)・ゴミ問題・省エネルギー等といった環境問題は深刻に私達に降りかかっています。
「家は20年かそこら持てば良い」と言うのであれば、文化など無用である。
しかし、60年以上もたせようとすれば社会に文化が育っていなければならない。
文化はみんなで育てるものである。
みんなが60年以上もたせるものと思えば、技術や制度はついてくる。」
私達は、住宅は社会の原単位である「家族を守る器」だと考えていますです。
住宅を考えるのはやはり住まう人たちだと思います。 そこに住まうはずも無い行政や建築家だけが考えているだけでは、本
質的な考えは育ってはいかないと思うのです。
住まう人も、造る人も、社会全体が「住宅の本質」を真剣に考えなければならない時代がやってきているのではないでしょう
か?。
それが社会に定着すれば、自ずと家は欧米並みに長生きするし、技術や制度も定着するはずです。
その時には商品と呼ばれ、20年かそこらもてばよいという住宅は存在しないはずです。
その考えを、造る側と住まう側の両者が持てた時、そこから本当の意味での私達の「家造考」が始まります
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